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東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)147号 判決

そこで、まず、本件審決が本願実用新案をもつて引用例と相違する点を有し類似でないことを認めながらなおこれを旧実用新案法第一条の考案と認められないとしその出願を拒絶したのは違法である、いいかえれば、本願実用新案は本件に適用のある同法第三条により拒絶できない場合は、他に同法第二条の事由に該当しない限り登録されるべく、これら両法条に該当しないのにただ同法第一条だけを適用し出願の拒絶をすることは許されないとの原告の主張について考える。

けれども、旧実用新案法第一条の規定によれば、(イ)「物品ニ関シ」(ロ)「形状、構造又ハ組合ハセニ係ル」(ハ)「実用アル」(ニ)「新規ノ」(ホ)「型ノ」(ヘ)「工業的」(ト)「考案」をしたものがその物品の型につき実用新案の登録を受けうると明定されており、また、同法第三条は右(ニ)の新規性判断の基準を定めたものであることがその規定上明らかであるから、登録されるべき考案は、右の(イ)ないし(ヘ)の各要件をすべて具備し、かつ、考案(ト)というに足りる程度のある水準以上の工夫ないし創作でなければならないと解すべきである。いいかえれば、右の(イ)ないし(ヘ)の要件中いずれか一つを欠いても登録を受けることができないのはもちろん、(イ)ないし(ヘ)の要件をすべて具備していても、「考案」(ト)といいうる程度に達しないものは、登録を受けることができないといわなければならない。そして、当業者が新規でない既存の考案にもとづいて容易に想到できる範囲の考案は、実用ある型における現在の水準と同一のものと評価されるべきものであることは明らかであるから、これを、登録を受けうる考案とすることができないこともいうまでもない。もつとも、考案の奏する効果が新規著大であるときは、その考案がそれまでに実施されていない限り、既存のものとの差異がそれほど顕著でなくても、これをもつて、当業者の容易に想到しえないものであることを推認させるものというべき場合があるけれども、本願実用新案の電気加熱装置にはそのような効果の認むべきものがないことは、後述ことに四の3(二)のとおりであるから、この点について考慮の余地はない。

ところで、本件審決は、本願実用新案が新規でないとか類似であるなど右の(イ)ないし(ヘ)の要件を具備していないといつているのではなく、引用例から容易に想到しうるものであり、旧実用新案法第一条の「考案」に該当するものとは認められないとしていることは明らかであるから、原告の右主張は、とうてい採用することができない。

(本願実用新案の考案の要旨と引用例)

1 (一) 成立について争のない甲第五号証(本願実用新案の最終分訂正説明書)および前示争のない事実によれば、本願実用新案は、(1)加熱装置を主電熱器と補助電熱器とで構成し、この両電熱器を電源回路に並列に接続して被加熱物を高温度に加熱することができるとともに、直列に接続して加熱温度を低めることもでき、なお、直列接続の場合には、自動変圧器(原告の主張に従い自動電流調整器と解しておく。)によつて、さらに加熱温度を加減することができるようにし、(2)このような加熱装置を二組備え、これらを同時にまたは各別に使用するものであることが認められる。もつとも、右甲第五号証中には、本願実用新案が寒期にビニール、ゴムのような物質の押出機に実施される場合好適である旨記載されているけれども、右説明書全体の記載、ことに、本願実用新案の名称が「電気加熱装置」とされていることおよび登録請求の範囲の記載により、本願実用新案がビニール等の押出機の加熱装置に限定されるものでなく、ひろく、登録請求の範囲の項の記載のとおりの電気加熱装置の構造にかかるものであることは、疑の余地がなく、そのように解するのほかないものである。

(二) ところで、本願実用新案の登録請求の範囲は、前示のとおりであり、その各構成部分の接続の面から記載されているけれども、これを右(一)の(1)(2)の認定に徴し、機能を加味して表現すれば、つぎのとおりのものと解することができる。すなわち、本願実用新案の考案の要旨は、

(a) 主電熱器と補助電熱器と

(b) これらを並列接続または直列接続に変更する切替開閉器と

(c) 直列接続のとき、その回路に挿入されて電流を調節すべき自動変圧器と

を備えた

(d) 調整自在の加熱装置二組と

(e) これら二組の加熱装置を電源回路に接続する三極開閉器とにより構成され、

(f) そのうち、一組の加熱装置は、右三極開閉器の左の極と中央の極とより電流を供給され、他の組の加熱装置は、同開閉器の中央の極と右の極とより電流を供給されるようになつている電気加熱装置の構造にある。

(三) 本願実用新案は、このように、全く同一の構造を有する加熱装置二組(両組の加熱装置の電熱器は、必ずしも相対応し同一容量のものであることを要しないと解する。)を設けることを一要件とするものであるが、このように二組設けた意義は、結局、「二組の電熱器(加熱装置)を同時または各別に使用しうるため種々の目的に使用することができる」との点およびビニール等の押出機に用いた場合には、シリンダー部と口金部との二箇所をそれぞれ任意に加熱しうる点にあることが、前掲甲第五号証により認められる。

2 一方、成立について争のない甲第二号証(引用例の公報)によれば、本願実用新案出願前の登録出願および公告にかかる引用例は、電気かまどにおいて、比較的高熱容量(例示されたものは一四〇〇ワツト)の電熱体と比較的低熱容量(例示されたものは六〇〇ワツト)の電熱体とを設け、三段発熱用開閉装置によつて、これら二電熱体を並列に接続して急速に加熱し、また、単独あるいは直列に接続して中、低熱作業をもしうるようにしたものの構造にかかるものであることならびに右の電熱体および三段発熱用開閉器は、それぞれ本願実用新案における電熱器および切替開閉器に相当するものであることが認められる。

(本願実用新案の考案性について)

そこで、本願実用新案について、引用例と対比しつつ、これが本件に適用のある旧実用新案法第一条の考案に該当するかどうかを考える。

1 まず、引用例にいわゆる電気かまどが電気加熱装置の一種であることは、いうまでもないところ、引用例の電気かまどが高低両熱容量の二個の発熱体と三段開閉器とを用いて、並列、単独、直列と加熱能力の加減を高中低の三段に切り替えるようにしているのを、引用例と同様二個の電熱器と切替開閉器とを用いた一般の電気加熱装置(三の1(一)後段参照)において、並列および直列の二段切替えのものに変更することは、当業者の知識をまつまでもなく、必要に応じきわめて容易にしうる程度のことであるといいうべく、ほとんど説明を要しない。

2 本願実用新案においては、直列接続のとき電流調整器をその回路に接続することを一要件としているけれども、電流調節装置は、電気加熱装置ばかりでなく、一般電気回路中電流を調節する必要のある箇所に適時に用いられるものであることは、原告の明らかに争わないところである(なお、成立について争のない乙第二号証参照)から、引用例ないし右1のような電気加熱装置に電流調節装置を付加することは、それを主電熱器または補助電熱器のいずれの回路に設けようとも、それは、電流調節装置をその本来の用い方において付加したというだけであり、それ以上に特段の顕著な効果を奏するにいたらせるものとは認められず、いずれにしても、当業者の臨機容易にしうべきところであつて、特別の考案力を要すべきものとは、とうてい認められない。

3 つぎに、(一) 本願実用新案においては、同一構成の加熱単位を二組備えている点をその考案構成上の一要件としている。けれども、加熱すべき箇所が複数であるとき、それに応ずる数の加熱装置を使用するというようなことは、何ら特別の創意工夫をまつまでもないことである。もし、二組の加熱単位が、一定の物品に即して、特殊な関係のもとに配置され、その結果当該物品として、右加熱単位が集合されているという以上に特別に新規有用であるというのであれば格別、そうでなく、単に加熱装置を二組設けたから、これらが同時または各別に使用し得て便利であり、ひいて電力を節約しうるにいたるという程度のこと(三の1(三))は、いまだもつて、考案というに足りないといわざるをえない。

(二) ここにおいて、原告は、本願実用新案はこれをビニール等の押出機としたとき、従来のものに比し著しい効果を収めることができるから登録されるべきものであると主張する。

けれども、本願実用新案は、三の1(一)に判断したとおり、その登録請求の範囲として記載されたとおりの構成の電気加熱装置のすべて、たとえば電気かまど、電気炉、電気煮炊具あるいは電気温床、電気毛布等にも効力の及ぶべきものであつて、単に右押出機に限定されるものではない。そして、本願実用新案がビニール等の押出機において効果があるというのは、二組の加熱装置をいわゆるシリンダー部と口金部とに配置し、始業のときは、それぞれ並列接続によつて急速に加熱し、その後は直列接続によつて操業を続けるようにし、その加熱電流を所望に応じ調節するために電流調整器を用いた点が、ビニール等の押出という新しい用途に有効に適合することによるのであつて、本願実用新案の配線構成を利用するからといつても、右は、ビニール等の押出機という特定物品の、しかも、そのシリンダー部と口金部とに結びつけて用いることによつて、はじめて有用な物品となるのである。すなわち、右のような加熱装置を二組用いた点も電流調整器を直列接続の場合に使用した点も、右のようなビニール等の押出機としたときにはじめて特段の有用性を認めうるにいたるのであるから、これは、もはや本願実用新案そのままのものではなく、本願実用新案に、さらに、これをビニール等の押出機に適用すれば効果があるであろうとの着想に由来してされた工夫を結合した結果によるものといわなければならず、その効果は、本願実用新案本来の効果ということはできない。右のような二段切替えの加熱装置二組を用いることも、直列接続における電流調節も、電気加熱装置一般としては、特段の意味をもつものではなく、それは、ただ何人でも考えられる必要な物を必要な数だけ備え、必要な箇所に既知の調節器を配するという当然のことに他ならず、考案力を要すべきものとはとうてい考えられないのである。したがつて、原告主張の右論拠にもとづいては、電気加熱装置一般を対象とする本願実用新案を登録すべきものとすることはできない。

なお、本願実用新案の考案者が右のようなビニール等の押出機に適用すれば特段の効果のあるような電気加熱装置を考案したとしても、その登録を請求するに当り、これを拡張して別の本願実用新案におけるような一般的電気加熱装置とし、その登録出願をしている場合には、登録を受け得ないというべきである。それは、一般に、ある登録請求事項に到達するのに、当該考案者が大いに努力をし同考案者としてはいかに考案力を必要としたからといつても、結局、その登録請求事項が、上述のように、これにきわめて容易に当業者の到達できる道のあるものであれば、旧実用新案法第一条の考案の存在を肯定することを得ないからである。

4 また、原告は、本願実用新案は基本電流が三相であるのに対し、引用例は単相であり、かつ、前者は二組の加熱装置を三相電源に対しVに接続して負荷のバランスを保つているが、後者は単相で負荷のバランスを保つていないという著しい差異がある旨主張する。

けれども、仮に本願実用新案が三相V接続であつたとしても、三相であることによる効果および負荷のバランスを保つていることについては、これを認めるに足りる証拠がなく、かえつて負荷のバランスが保たれていないことは、前掲甲第五号証に徴し明らかであるし、これが、単相の引用例に比して特に意義ないし効果があるものとは認められない。しかも、V接続とは、特定の変圧接続方式を指す術語であり、単に接続の形がV型だからといつて本願実用新案におけるようにV変換の変圧現象を伴わない電熱器などの場合に用うべきものでないことはいうまでもない。

5 なお、原告は、本願実用新案は工業用に適し、引用例は工業用に適しないと主張するけれども、引用例が工業用に適しないものであると認めしめる証拠はなく、かえつて、前掲甲第二号証によれば、引用例における発熱体の大きさもかまどの大きさおよび性質により多様にわたりうることが認められ、しかも、電気かまどといつても、家庭用のものから工場生産用のものまでありうることはいうまでもないところであり、さらに、発明、考案は原則として規模寸法には限定されないから、原告のこの点の主張も採用の余地がない。

6 原告は、甲第九ないし第一一号証を提出し、また乙第一ないし第三号証を援用し、強弱三個の電熱体を切替開閉器で切り替える電熱装置または電気炉が公知であつても、その具体的構造が異なるときは、新規な考案を構成し登録されるものであることを立証し、ひいて、本願実用新案も、引用例と具体的構造を異にし特別の効果を奏するとし登録されるべきであることを推認させようとする。けれども、右各書証にかかる考案は、それぞれの特別な構造と新規な効果とによつて公告ないし登録されるにいたつているものであることがうかがえるばかりでなく、これらをもつて、にわかに本願実用新案が引用例から当業者において容易に想到しうるかどうかの上述の判断を左右させるに足りるものとは認められない。

なお、証人松井繁次郎の証言中には、本願実用新案の加熱装置の構造を施したビニール押出機は、二組の加熱装置の各組内にそれぞれ電流調整器を有し、三極開閉器の直後に電流調整器一個を設けたものより効果において良好である旨の供述部分があるけれども、右3の(二)において明らかにしたとおり、本願実用新案の構造を右押出機に施した場合の効果が本願実用新案の効果ということができない以上、これが以上の判断を左右するに足りないこともまた明らかである。他に以上の判断をくつがえすに足りる証拠はない。

以上のとおりであつて、(一)主電熱器および補助電熱器と切替開閉器とを用いた電気加熱装置において、両電熱器を並列接続および直列接続の二段切替えのものとすること、(二)右の直列接続の回路に電流調整器を使用すること、(三)このような電気加熱装置を二組用いることは、いずれも考案力を必要とするほどのものでなく、かつ、これら(一)(二)(三)を合わせ用いることも格別の創意工夫を要するものとは認められず、さらに、二組の加熱装置を三相電源回路に接続する点も、右4のとおり本願実用新案を特段のものとするに足りないし、三相電源回路の開閉のために三極開閉器を挿入することが考案力を要しないでしうることもいうまでもないから、結局、本願実用新案は、本件審決引用の刊行物の記載(引用例)から、当業者が必要に応じ考案力を用いず容易に想到しうべき程度のものであり、旧実用新案法第一条の考案を構成しないものと認めるのを相当というべきである。

右のとおりである以上、原告が本件審決を違法であるとして主張するところは、すべて採用できないことが明らかであり、本件審決は相当であるから、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がなく失当として棄却すべきである。

〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。

本願実用新案にかかる装置の配線略図

<省略>

引用例にかかる電気かまどおよび発熱体の電気的接続の線図

<省略>

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